上高地登山鉄道計画

最初に、上高地登山鉄道計画については多様な立場の方々の、様々な理由による賛否双方の意見があることをご承知おきください。自然環境保護の観点からも手放しに歓迎、または推進すべきものでも無いということです。
また、多様な意見のみならず、多額の予算と建設による自然環境への影響を図りきれず、頓挫・棚上げ、具体調査すら行われていません。

上高地を楽しんだ後の、ビールのつまみ話のネタ程度に軽い気持ちで読んでください。

構想・背景・経緯

上高地への登山鉄道計画は、1993年(平成5年)に旧安曇村(平成17年松本市に編入)による新輸送システム「登山鉄道構想」として検討を始めたことに起源します。この登山鉄道構想の目的は…

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  1. 交通渋滞解消(主に沢渡地区の)
  2. 環境保全(廃ガスなど)
  3. 上高地への入り込み者の総量規制

安房トンネル開通以前の当時、岐阜県側からは長く細いつづら折れの最高標高1,790mの峠を超えなければならず、また県道上高地線のマイカー規制により事実上上高地へは長野県側から新島々または沢渡でバスに乗換えて行く以外に交通手段がなく、沢渡地区の駐車場不足、右折や一時停止など、沢渡の渋滞が慢性的なものとなっていたようです。

また、年々増え続ける来訪者に対応するための施設や交通量に応じた道路の拡張、汚物やし尿の処理など様々な問題は、それぞれ近い将来自然が許容できるキャパシティを超えると予測されていました。

旧安曇村の計画は、沢渡から上高地まで直線的にトンネル(約9km・標高差約500m)を掘削し、鉄道を引くという内容。
上高地の通年開放による経済効果、現状の「上高地への入口」という立場の堅持(1997年に安房トンネル開通予定)、などの思惑があった様で、手放しに賛成されるものでもなく、試算では500億円かかる建設事業費、トンネル掘削が及ぼす環境・自然への影響なども批判や懸念の材料だったようです。

夢の山岳鉄道「上高地鉄道」

一方、夢の構想「上高地鉄道」が発表されたのも1993年。
鉄道沢渡駅から国道158号線と梓川の流れに沿って梓・坂巻・中ノ湯の各駅を通り最終の上高地駅までの具体的な駅や路線図、勾配まで緻密に計算された山岳鉄道建設構想で、鉄道の敷設でゆるい汽車旅そのものを楽しめる究極の山岳鉄道計画。

こちらは、鉄道での旅を中心とした作品を数多く発表した紀行作家・宮脇俊三氏『夢の山岳鉄道』(1993年6月初版)中にある「上高地鉄道」。トンネル掘削より環境への負荷も少ないであろう、むしろ現実的で魅力的な計画ですが、検討・実現の可能性は皆無。本の中お話、空想です。

推奨・修正案・懸念・提言など

2000年 田中康夫知事
県庁職員との交流会で上高地への登山電車を提案。
2005年 旧安曇村が松本市に編入
旧安曇村がにより委託された民間の建設コンサルタントが2002年にまとめた試案は、松本市アルプス観光協会(安曇地区の観光産業関係者の任意団体)へ引き継がれました。
奇しくも同年7月、国道158号線沢渡地区(うすゆき橋下周辺)で大規模な土砂崩落災害。
2009年 修正案
土砂崩落災害以降、上高地を訪れる観光客は徐々に減少、落ち込む地域経済の振興という側面から建設事業費を初案の半分程度に抑える「掘削したトンネルに、燃料電池ハイブリッドバスを運行させる」修正案を松本市アルプス観光協会が策定、民間主導で広く地域全体に投資を呼び掛け、今後、市や県、国などに研究成果を提言するとしたが、事業推進の具体的な枠組みなどは決まっておらず…
2014年 長野県企画局交通政策課
長野県は2003年頃より松本電鉄(現アルピコ交通)導入した低公害ハイブリッドバスに助成金支出開始、長野市在住者からの問い合わせに「登山鉄道は建設コスト、上高地の自然に及ぼす影響を考えると現実的な方法とは考えられず、低公害バスを最大限活用する」と回答、総量規制についても「環境省や県、安曇村などの地元でつくる「上高地自動車利用適正化連絡協議会」での議論することを提案していく予定」と回答

安房峠道路(安房トンネル・湯ノ平トンネル)の開通により、沢渡での渋滞は解消傾向にある。また、国道158号線は高規格幹線道路・中部縦貫自動車道という位置付けで、拡張・改修が続けられている。また、中部縦貫道高速道路という計画もあり、登山鉄道は唐突で辻褄があわない。

活火山・焼岳の高温帯が接近しており、工事に危険が伴う(安房トンネル工事では火山性ガスを含む水蒸気爆発で作業員4人が犠牲になっいる。また、土砂崩れと同時に雪崩も発生、梓川になだれ込んだ土砂は6,000m3にも及んだ。)

何ゆえ沢渡が始発地なのか。新島々駅~沢渡間を鉄道で繋がないことには、沢渡での問題は解決せず。(松本電鉄・上高地線の当初計画は松本から高山までを繋ぐもの。事業計画はさまざまな理由で頓挫しましたが、繋がっていれば…。)本気で環境云々を考えるなら、新島々から超深度にトンネルを掘削すれば…(直線18km・標高差800m)

ゼネコンや安曇村、地元交通機関などは、それぞれの利益を優先させ、国民的財産である上高地の自然環境を守る立場にたっていないと考えられる。また上高地の表玄関は安曇村であるとして、岐阜県側にイニシァチブを取られたくないという「地域エゴイズム」の感が強い(長野県自然保護連盟)

そもそも上高地には総量規制が必要で、一定数を保てば渋滞と環境問題は改善され、登山鉄道建設の論議は意味を成さない。(長野県自然保護連盟)

トンネル建設は、大型の機械類が導入される大きな土木工事であり、地層や地下水脈の分断、掘削や排土の搬出、埋め立て、またその用地の確保などにより、生態系に大きな変更が避けられないだろう。また、大型の機械類の導入は、排気ガス、機械類の移動に伴う自然や景観の破壊が予想される。(長野県自然保護連盟)

「上高地登山鉄道について」調査研究報告書

1 はじめに
建設委員会は調査・研究テーマの一つとして、「上高地登山鉄道について」検討しました。これは、日本を代表する山岳景勝地である上高地では、環境に配慮したバス等の運行が進められていますが、環境に配慮した将来社会を展望した時、より一層の環境対策を講じ、その大自然を保全するとともに、平成9年12月の安房トンネル開通後、岐阜県側からの観光客の入込が急増していることへの対応、大型バスやタクシーによる上高地区域内の激しい交通渋滞の解消、また、観光客に安全で安心して上高地を楽しんでいただくことを目的に、上高地における新しい輸送システムについて調査研究したものです。
2 検討経過
平成22年6月調査・研究テーマの一つに「上高地登山鉄道について」を決定(以降割愛)
3 検討内容
  1. 「上高地新輸送システム」についての研修
    旧安曇村では平成5年3月、当時の安曇村長が「上高地登山鉄道構想」を表明して以降、松本市に合併する平成17年3月までの間、上高地登山鉄道(計画)に関する様々な研究や検討に取り組みながら議論を重ねてきた経緯があります。
    最近では、上高地の諸課題解決のための方策を研究し、社会に提案することを目的として、平成 17 年に「上高地新輸送システム」研究会が立ち上げられ、4年余りの研究がなされた結果、平成21年には提案書として「上高地新輸送システム」が取りまとめられました。
    このため当建設委員会では、テーマ提案者の意向もあり、「上高地新輸 送システム」提案書をまずは取り上げ、この調査・研究から始めることといたしました。
    第1回目は、この報告書をとりまとめた日本工営株式会社本社非常勤顧問の伝田幸男氏と同都市交通システム次長の溝上伸一氏を招いて提案書の内容についての説明を受けました。
  2. わたらせ渓谷鐵道の視察調査(割愛)
  3. 国道 158 号の渋滞状況、沢渡駐車場の混雑状況の現地調査
    上高地登山鉄道構想の発端となった、深刻な渋滞問題や駐車場問題などから、国道 158 号の渋滞状況や沢渡駐車場、平湯駐車場の混雑状況について、現地調査を実施いたしました。
  4. 沢渡地区駐車場基本計画について説明を受ける
4 終わりに
以上の調査研究から、課題解決のための新輸送システムとして登山鉄道、LRT、BRTなどが考えられることがわかりましたが、初期費用などのコスト面の問題の検討や、地域住民の意見聴取を行なうなどの調査研究が十分行なえませんでした。このテーマ「上高地登山鉄道について」は、今後、時間をかけて各般にわたり検討する必要があることから、今回は提言を行なうまでにはいたらなかったため、これまでの調査・研究活動について報告するものです。

「上高地登山鉄道について」調査研究報告書/松本市議会建設委員会

松本市議会建設委員会の報告以降、上高地登山鉄道計画について進展はなく、報告は事実上の凍結宣言だったそうです。(請け売りです。真偽のほどは…)

宮脇俊三氏『夢の山岳鉄道』のように景観など鉄道移動そのものを楽しめるもので無ければ今の上高地シャトルで十分。松本電鉄上高地線に繋がらない沢渡乗継ぎに利便はなく、利用する側の観点が欠落しているのですから…

環境の観点に利用者の利便が勝るという意味ではありません。念のため。